渓流釣りのターゲット、清流の美しい魚たち!!

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渓流釣り愛好家のみなさんにはお馴染みですが、これから渓流釣りを始めてみたいという方々に、その対象魚がいかに美しいか、魅力的か、そして意外と知られていない棲態(生態)について解説してみたいと思います。

渓流魚02

渓流ではこんな魚たちが元気に暮らしています

一口に渓流といってもその範囲はとても広く、標高の高低によって棲息する魚もかなり異なります。

また渓流魚たちは、概ね水温によって棲み分けることが多いため、例えば気温差の激しい九州と北海道では同じ魚でも居場所はかなり異なります。ヤマメを例にあげると、九州では脊梁山脈の奥深い源流をおもな棲息域にしていますが、北海道ではかなり下流域の、里川のいたるところで見受けられます。

 

本州の標高300〜500メートル程度の一般的な渓流に棲息している魚類はおもに

・イワナ(岩魚)
・ヤマメ(山女魚)
・アマゴ(ヤマメの亜種)
・ニジマス
・アユ
・ウグイ
・カジカ
・オイカワ
・アブラハヤ
・ウナギ

などです。

また非一般的、つまりおもな特定地域固有の魚は、

・琵琶湖に注ぐ河川のビワマス(ヤマメの亜種)
・中国地方のゴギ(イワナの亜種)
・北海道(東北の一部)のイトウ
・オショロコマ(イワナの亜種)
・アメマス(イワナの亜種)
・マスノスケ

などがいます。

あと本来は渓流魚とは呼べないまでも、

・利根川のソウ魚とレン魚
・全国の湖沼や一部の河川に棲息するヒメマス
・ブラウントラウト
・モツゴ(クチボソ)

なども入れてよいと思います。

それから、本人たちにはなんの罪もないのに害魚のレッテルを貼られてしまっている、ブラックバス(大口バス)とブルーギル…といったところでしょうか。

渓流魚01

渓流釣りの対象魚はなんと言っても「ヤマメ」「イワナ」「ニジマス」

既述した渓流魚のなかでも、対象魚として多くの釣り人から羨望の眼差しを向けられるのは、やはり渓流の女王「ヤマメ(またはアマゴ)」渓流の王様「イワナ」、(羨望…というほどでもないかも知れませんが)、そして渓流の暴れん坊将軍(←筆者命名)「ニジマス」ではないでしょうか。

かなりマニアックな話になってしまいますが、ここではこの3種に絞り、その生態と魅力を解説していきたいと思います。対象魚の生態や学術的特徴、際立った個性などを知ることは、釣果に直結した限りなく有意義なものであると確信します。

渓流の将軍「ニジマス」

渓流釣りビギナーにとって、おそらく一番身近な存在になるであろうニジマスから紹介します。なぜなら、練習のために利用することの多い管理釣り場の多くが、ニジマスを対象魚としているからです。

「レインボートラウト」なんて美しい洋名を持つにもかかわらず、渓流ファイターとも呼ばれ、そのハシタナイほどの貪欲さは群を抜いています。繁殖力もハンパなく旺盛です。

それもそのはず。元をたどると食糧不足の明治時代に、貴重なタンパク源としてアメリカから移入された外来魚なのです。

 

日本の渓流に解き放たれたニジマスは、日本人お得意の護送船団方式で大挙遡上してくる最強のアユ軍団さえも物ともせず、かたくなに最後までテリトリーを守り続けるタフな魚です。

目の前に流れてきたものがエサと見るや(エサでなくても)一切確認せずに強引にかぶりつきます。…なので悲しいかなシロートでも簡単に釣れちゃう、ヤンチャで大雑把かつオチャメなお手軽渓流魚なのです。

これは多くの渓流管理釣り場が、当該魚を積極的に導入したゆえんでもあります。管理釣り場としては、魚種はともかく釣れなければリピーターを確保できませんから…ね。

 

また、水温や流れに比較的デリケートなイワナやヤマメと違い、特に水温の変化による活性の鈍化も少なく、扱いやすい魚種であることもその理由といえます。

筆者はニジマスと格闘するとき、いつもプロ野球中継でしばしば起こる乱闘シーンを思い出してしまいます。暴れまくる大きな助っ人外国人がニジマスとかぶって仕方ないのです。むろん、やられまくり逃げ回っている可哀想な日本人プレーヤーはヤマメやイワナといったところでしょうか。

悪食の帝王「イワナ」

みなさんも一度は目に(耳に)したことがあるのではないでしょうか? 「川面を泳いで渡るヘビさえも飲み込むイワナの悪食」伝説を。

アメリカからニジマスさえ来なかったら間違いなく「渓流ファイター」の王座に君臨していたであろうイワナは、エサの乏しい源流や源頭部に棲息するため、とにかく食べられるものは何でも食べます。グルメの素養は微塵もありません。

近年「幻の魚」といわれて久しいイワナですが、ある意味これは自業自得ともいえます。何しろニジマスに勝るとも劣らない食いしん坊なのですから仕方ありませんね。

 

イワナは標高500メートル以上(本州基準)の源流(最上流部)に棲息する格調高き渓流魚でしたが、1970年代頃から道路(山道)やクルマ(オフロード車)が飛躍的に発達し、以前は来ることができなかった源頭部付近まで釣り人が押し寄せたため、あっという間に釣られきってしまい、絶滅寸前まで減少してしまいました。

筆者の亡き父親などは、魚野川(新潟県)源流の万太郎谷と毛渡沢で、「イワナを1日に200尾釣った」などと自慢していたほどです。当時は日本全国がこのようなありさまだったと想像できます。イワナは、ある意味なるべくして「幻の魚」になってしまったのでしょう。むろん、我々釣り人たちの無分別な乱獲が最大の原因であることは、いうまでもありませんが…。

放っておいたらとっくに絶滅していたであろう「ヤマトイワナ」や「ニッコウイワナ」が現在も生き残っているのは、メディアに取り上げられて有名になった「新潟のイワナ仙人」こと五十嵐新三さんをはじめ、地域固有のイワナを守るために労苦を惜しまなかった多くの漁業関係者のおかげです。イワナをこよなく愛する渓流釣り師なら、誰もが敬意を表す神様のような方々です。

 

イワナには先にあげたニッコウイワナやヤマトイワナの他に、キリクチ(奈良県十津川水系)、ゴギ(中国地方)、オショロコマ(北海道)、ミヤベイワナ(然別湖に封じられて独自に発達したオショロコマ)など、多くの亜種が存在します。

その降海型とされる魚は、今のところおもに北海道で確認されているアメマスということになっていますが、様々な議論があり諸説紛々の状態です。

渓流の女王「ヤマメ」

筆者は彼女(ヤマメ)一途です! 賛同いただける釣り師の方々は少なくないと思います。魚体の美しさ、信じがたい賢さ、俊敏さ、表情の愛らしさ(?)は群を抜いていると思います(客観性を欠いた個人的意見?で恐縮ですが…)

何度か釣られそうになって(騙され)警戒心が異様に発達してしまったヤマメ(彼女)を「スレ」と呼びます。ちなみに、対象魚以外のしつこいエサ取りは雑魚(ざこ)と呼びます。…断わっておきますが、これは渓流魚の話ですよ。

筆者がホームグラウンドとする多摩川や秋川上流部のヤマメはほぼすべてスレですから、一尾を釣るにも苦労します。それだけに釣れた喜びもひとしおですが…。

 

既述のとおり、ヤマメはニジマスやイワナと比べて、とても警戒心が強く賢い魚です。胸ビレ付近から尾に向かって伸びる「側線」と呼ばれる、人間の触覚にあたる感覚器官の一種が魚体の左右にあります。

エサのようなものが流下してくると、体を近づけて一旦やり過ごす光景をしばしば目にしますが、このときに食べられるかどうかを側線(触覚)で見極めているのです。

「食べられる」と判断すると瞬時に反転して喰いつきます。これは、特に大物やスレヤマメに見られる傾向です。やはり、世知辛い世の中を懸命に生き抜いてきた長年の経験(?)がなせる技といえるでしょう。一人(1尾)で生きていくことは大変なことなんです。…むろん、これも渓流魚の話です。

 

またヤマメは、俊敏さもピカ一です。釣り名人でもあり大学教授でもあった石垣尚男さんの著書によると、テンカラ釣りにおいて、ヤマメが毛針を喰わえニセ物と判断して吐き出すまでの最速タイムは0.2秒だったそうです。

筆者のテンカラ釣りもそうですが、手元にアタリがきてから合わせてもお話になりません。川面に漂う毛針の一点をひたすら見つめ、周辺でキラッと魚体の輝きらしきものが視野に入った瞬間に合わせてちょうど良いぐらいなのです。

これから渓流釣りをはじめられる方には酷な宣告になりますが、スレたヤマメはホント〜に難しく、奥深く、味わい深い対象魚ですよ。だからこそ、多くの釣り人が惚れ込みハマってしまうのだと思います。

 

渓流へのアクセス代(高速道路通行料やガソリン代)、エサ代や様々なリスクを勘案すると、とても割りに合わない釣りであるともいえます。筆者もカミさんから衝撃的な嫌味をくらったことがあります。「今日の釣果はヤマメ一尾? 諸々合わせて6,000円のヤマメか、スーパーに行けば200円で買えるのにね!」

「ヤマメ」と「アマゴ」は本当に違う魚?

ヤマメにとてもよく似た魚に、「アマゴ」という亜種がいます。ヤマメは日本だけでなく、カラフトやカムチャッカ半島、朝鮮半島、台湾にも広く分布していますが、アマゴは日本のみに棲息する固有種です。

全体の色も形もほぼ同一の両者を見た目で、識別できるポイントは側体にある朱点(赤い点々)のみです。朱点があるのがアマゴ、ないのはヤマメ。しかしアマゴの朱点は個体差が大きく、はっきりとした眩しいほどの赤点が認められるものと薄くてヤマメと見紛うものと様々です。

嘆かわしいことに、スーパーの鮮魚コーナーでは、明らかな朱点アマゴをヤマメの名で売っている光景もよく目にします(アマゴが可哀想)

 

実は両者は朱点の有無だけではなく、ある意味まったく違う魚なのです。

まず、本来の生息域がはっきりと分かれていました。最近は、漁協による稚魚や発眼卵の無分別放流によって、既述のスーパー鮮魚コーナーの如く混在地域が増えてしまっていますが、元々は下図のとおり神奈川県の酒匂川を境に完全に棲み分けていました。

また両者の決定的な違いは、魚類を分類する上で大きなファクターとなる鱗相(りんそう→ウロコの模様)と鰓耙(さいは→口から吸い込んだものを分離する濾過器官)の目の数が明確に異なるのです。

性格も少し違うように思われます。筆者の印象では、ヤマメはピリピリした神経質で頭脳明晰な才女、目がつり上り鼻筋の通った、有能で都会的なスッピン(朱点がないから)美女であり、アマゴは頭の良さは抜群なれどオットリとした癒し系女子、タレ目で笑みを欠かさない温かみのある厚化粧(朱点があるから)美女といったところ…でしょうか(?!)。…念のため再度断わっておきますが、これはあくまで渓流魚のお話です。

混合・交配が進んでしまった現代では、専門家による学術研究においても諸説あるようですが、これまで説明したとおり、大昔に限ってはまったく違う魚だったといえるでしょう。

 

全国県

陸封型と降海型

サケマス系のイワナやヤマメの仲間には、陸封型降海型が存在します。

陸封型とは、産まれた渓流に留まり一生を終える個体。降海型は、海や大きな湖に下り、富栄養化な環境で肥大化(?)し、産卵のために生まれ故郷の渓流に戻ってくる個体です(サケの遡上が有名)

面倒臭いことに、陸封型と降海型は別々の名前で呼ばれます。まぁ見た目が全然違うので、それも仕方がないですが…。ただし、いわゆるワカシ(35センチ以下)→イナダ(60センチ以下)→ワラサ(80センチ以下)→ブリ(80センチ以上)のような出世魚とは意味合いが違うので混同なきよう。

陸封型→降海型の名称の例を示すとこんな感じです。

・ヤマメ→サクラマス
・アマゴ→サツキマス
・イワナ→アメマス
・ニジマス→スチールヘッド
・ヒメマス→ベニジャケ
・マスノスケ→キングサーモン
・ブラウントラウト→シートラウト

 

例えばヤマメとサクラマス、産卵時には異様な光景が見られるそうです。

陸封型の多くがなぜかオスで、降海型の多くがメスであるため、どう見ても同じ魚とは思えない20センチ程度のヤマメ(♂)と90センチほどに成長したサクラマス(♀)が産卵行動を繰り広げるわけです。

一体の巨大なメスに小さなオスが何尾も寄り添い産卵します。映像などで観るととても不思議な気がしますが、ある意味、同じ魚とは思えないどうしが同じ魚であることを証明している瞬間でもあるのでしょう。

渓流魚は秩序を遵守する高貴な魚

渓流釣り場では、いつ行っても決まって同じポイントでほぼ同じ大きさの魚が釣れます。これは、そのポイント周辺における同種の魚たちが律儀に序列を遵守しているからです。

まず、最もエサの流下が多い優位な場所に、最大の魚が定位します。この個体が釣られてしまうなどしていなくなると、次に大きな魚がその位置に移動します。二番目、三番目以降も同様に繰り上がっていくのです。大雨や台風などで渓相が激変したり、アユの大軍に追いやられたりしない限り、この秩序が変化することはありません。

だから釣り師は同じ渓流に足繁く通い、こうした絶好ポイントを丹念に探します。そして、見つけたポイントは、他人には絶対に教えません(笑)

このような心の狭いベテラン釣り師も、これから始めるビギナーも、渓流魚たちに笑われないよう、社会秩序(ルールやマナー)をしっかり遵守し、気持ちよく釣りを楽しみましょう。

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