近年、アウトドア用品は主に高機能・高性能の化学繊維が使われるようになりましたが、依然としてそのクラシカルな雰囲気から革製品も多く使われています。
革の魅力といえば、化学繊維より手入れをすることによって長持ちするという点や、使っていくうちに経年変化を起こして味が出てくることでしょう。
しかし、革は長持ちさせるためにはしっかりと、こまめに手入れをしなければなりません。そうしないと、革は思っている以上にすぐに傷んでしまいます。
とはいっても、ひとえに革といっても無数の種類があり、革はその種類に合った手入れをしないとすぐにダメになってしまいます。また、それに伴い無数のお手入れグッズが存在しており、初めて革の製品を手に入れた人を泣かせることになります。
筆者も、初めてアウトドア用の革のブーツを手に入れたときに、どのように手入れをしていいかわからず、スエードにスムースレザー用のクリームを塗ってしまい、起毛をダメにしたことがあります。
しかしそれからというもの、しっかりと革のことについて勉強をし、現在はレザークラフトも趣味として行っています。
これから、革の手入れが初めて、または少しはしたことがあるけれども、もう少しだけ詳しくなりたいという方に向けて、革製品に使われている革の種類とそれに合った手入れの方法を二回に分けてご紹介します。
アウトドア製品に使われている革の種類
まず、ケアの話をする前に、前提知識として革の種類を知っておかなければなりません。したがって、この記事ではアウトドア製品によく使われている革の種類について解説していきます。これらの用語は、カタログや商品ページなどに記載されていることが多いため、用語の意味を知っているだけでも靴やグッズ選びが楽しくなると思います。
使われる革
革は動物由来の素材なので、ひとえに革といっても様々な動物から取られています。
カウレザー(牛革)
アウトドア製品で一番多いのがこの牛革です。
牛革は厚く、強度があります。牛革の中にも牛の成長度合に応じて「カーフ」「カウ」「ステア」「ブル」などの種類がありますが、耐久性が求められるアウトドア製品においてもっともポピュラーなのは、雄牛から取られる「ステア」や「ブル」などです。
主に靴やカバンなどに使用されていることが多いです。革の登山靴やワークブーツのアッパーは大抵の場合がカウレザーでできています。
また、焚火やバーベキューの際に火の粉から手を守る手袋は、耐熱性に優れ、分厚い牛のレザーが使われています。
ピッグスキン(豚革)
豚革は国内で自給自足ができている革で、カウレザーとは違い、表面には一目で分かるほどの大きさの毛穴がたくさんあるので比較的すぐに見分けられます。
豚革は牛革と比べると軽くて薄いため、靴などに使用されることはあまりありませんが、国内生産を売りにしている革小物などによく見られます。また、通気性の良さから、ブーツの内側の革に使われていることもあります。
ホースレザー(馬革)
柔らかく柔軟性があるため、レザージャケットや一部のカバンなどによく使われているのが馬の革、ホースレザーです。高級ブランドの鞄に使われていることも多い、革のダイアモンドと呼ばれる「コードバン」もホースレザーですが、アウトドア製品で使われることはめったにありません。
ちなみに、筆者が自然公園などを歩くときに持ち歩くカメラバッグはホースレザーでできています。
シープスキン(羊革)
薄くて柔らかいのが特徴的なシープスキンはジャケットや高級ブランドの手袋などに使われることが多いです。アウトドア用の革手袋にもよくシープスキンが採用されているのを見かけます。
これらの動物の皮を加工して、革製品となります。
鞣し(なめし)
次に、革製品の鞣しと呼ばれる工程についてです。もともと動物の皮膚であった革は、そのままの状態では腐敗して革としては成り立ちません。その皮膚を革にするための工程が鞣しです。
この鞣しの工程では、鞣し剤と呼ばれるものが使われています。その鞣し剤で現在主流なのが植物由来の「タンニン」、そして塩基性硫酸の「クロム」です。アウトドア製品の多くは耐久性の優れているクロム鞣しがほとんどですが、キャンプ用品ではよくタンニン鞣しを売りにした製品を見かけます。
(1)タンニン鞣し
タンニンは植物由来の化合物で、タンニンを用いた革の鞣しは古くから行われています。タンニン鞣しの革は一般的に経年変化が大きく、自分で育てる喜びがあるとされています。しかし一方で水には弱く、少し濡れるだけで水染みになってしまう弱さもあります。
タンニン鞣しはコストと時間がかかるので、高価になってしまうのも一つのデメリットといえます。
(2)クロム鞣し
クロム鞣しとは、化学薬品である塩基性硫酸クロムを鞣し剤として使用しているもので、コストが安く、手間もかからないうえ、クロムでなめされた革は頑丈になるのでブーツなどの革によく使われます。
一方で、タンニン鞣しよりは変化が少ないといえます。
見分け方
多くの場合、タンニン鞣しはコストと手間がかかるため、それ自体が一つのアピールポイントになります。そのため、製品ページの素材が記載されているところに「タンニン鞣しレザー」「ナチュラルレザー/ヌメ革」と記載されていたらそれはタンニンでなめされた革です。
もし「オイルレザー」やただ単に「レザー」とかかれている場合はクロム鞣しだと思っていいと思います。実際、現在流通している90%はクロム鞣しです。しかし、クロムが環境に与える悪影響や近年の地球環境問題、また自然派志向から、革製品にも植物由来のタンニンを用いた革を採用することが増えてきたようにも思います。
インターネット上で見分けるのはあまり難しくありませんでしたが、実店舗で見る際には素材まで書いていないことがほとんどです。実際に見て見分ける方法としては切り口を見てください。
クロム鞣しはその性質上、表面と比べて切り口が青白くなっています。そのため慣れるとすぐに見分けることができます。
一方で、タンニン鞣しの革は切り口が茶色/革の色です。着色されている場合は表面と色が同じなので、その点でも見分けることができます。
革の種類
鞣しが終わった革は、次に加工されてようやく革となります。加工の種類も様々で、この種類によって手入れのときに使うクリームなどが変わるので、一番重要な点といっても過言ではありません。
オイルレザー
革の鞄やブーツなどに使われることが多く、アウトドア製品で一番見かけることが多いのがオイルレザーです。鞣しの最中や鞣しが終わった後にオイルを染み込ませることによって、より丈夫になり傷にも強くなります。
オイルレザーの中にも、マットな質感のものからオイルが多めでウエットな質感のものまであります。
ナチュラルレザー/ヌメ革
植物タンニン鞣しのあと、染色や加工などをされずにそのままの形で出荷されるのがナチュラルレザー/ヌメ革です。強度があるのと、強烈な経年変化が特徴で、一から革を育てる楽しみがあるのが最大の魅力です。
この革は財布などに用いられることが多いですが、アウトドア製品においては例えばバーナーのガス缶カバー等の小物に使われることが多いです。
ヌバック
オイルレザーと並んで登山靴やクライミングシューズに用いられることが多いのがヌバックです。ヌバックは表面をサンドペーパー等で削り、起毛させているのでオイルレザーのように表面がツルツルしていません。
スエード
スエードもヌバックと同様、サンドペーパーで表面を起毛させている革です。ヌバックよりもふわふわしており、冬用の少しカジュアルなブーツに使われていることがあります。ヌバックとスエードは、オイルレザーと手入れの方法が違うので注意が必要です。
起毛させることで柔らかで温かな印象の見た目になると同時に、グリップが効くようになります。そのため、ものを持つための焚火グローブなどに使用されることもあります。
ブライドルレザー
馬の鞍や高級な財布や鞄に使われることが多く、アウトドア製品で見かけることは稀ですが、一度だけブライドルレザーを使ったアウトドア鞄があったので紹介します。
ブライドルレザーは、鞣し、染色の後に数か月かけて蜜と蠟を染み込ませた革です。簡単に言ってしまえばワックスドキャンバスの革バージョンと言ったところでしょうか。非常に高い耐久性と、蠟による撥水性が魅力ですが、手間がかかるため非常に高価になってしまうのが欠点です。
個人的にはコストの面さえクリアできればアウトドア製品にも、もってこいなのではないかと思います。
まとめ
ここまでが、アウトドア用品において主に使われている革の種類の紹介でした。今まで革は革だ、と思ってきた方には新しい発見だったのではないでしょうか。これらの用語や種類を知っているだけで、アイテム選びが何倍も楽しくなります。今回ご紹介しきれなかった革達が世の中には溢れています。それが革の一つの魅力ともいえます。
次の記事ではこれらの前提知識を基に、本題である革のお手入れについて詳しく解説していきます。
次の記事(革ごとのお手入れ方法について)はコチラ↓
岩と自転車をこよなく愛するが、普段は用事がないと家から出ないインドア派。何事も形から入るタイプで、ギアの知識だけは人一倍。ギア好きをこじらせてアウトドア用品店でバイトをしていました。人生の3分の1を海外で生活し、現在もヨーロッパにて勉強中。海外のアウトドア文化も発信していければと思っています。