知っておくとレインウェア選びが楽しくなる「防水加工生地」について

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日本の冬は雨こそ少ないですが、その代わりに寒く冷たい風が吹きます。
そこで役に立つのが防風性が高いレインウェア。咄嗟の雨にも対応できて、風を防いでくれるレインウェアは一着持っていれば街中でもアウトドアアクティビティの際にも活躍する優れもの。

しかし、昨今、レインウェアはその代表格であったGORE-TEXのみならず、様々なファブリックが登場しています。この記事では、それらの防水加工の紹介と、特徴などの簡単な解説をしていきます

 

メンブレン系


(画像出典:Goreprotectivefabrics.com「GORE-TEX Shelter Fabric | GORE® Protective Fabrics」より)

まずは、メンブレン系の防水生地から解説していきます。

 

そもそもメンブレンとはなにか

メンブレンとは、「膜」を意味する言葉で、ここに防水・透湿性を持たせています。といわれてもよくわからないと思います。

GORE-TEXなどの生地は、それまでの撥水加工系の生地とは違い、一枚に見えて実は数層になっています。その構造は、一般的には3層になっていて表生地、メンブレン、裏生地という構造になっています。上の画像でいうと、表生地には耐久性の高いテキスタイル、そして肌に触れる部分にはメッシュライナーでePTFEメンブレンを挟んでいます。こうして、生地が層を形成しているのです。

肝心の防水性はメンブレンが担っています。このメンブレンは文字通り「膜」なので、それ単体では柔らかく、摩耗にも弱いため、他の生地で挟み耐久性を持たせています。そのため、表生地に水が入ったとしてもこのメンブレンで水が止められるというわけです。

このメンブレンが、ビニールカッパと違うところは水の分子は通さないけれど蒸気は通す小さい穴が無数に開いているところにあります。そのため、ビニールカッパと違って体から放出される汗や蒸気がしっかりと外に発散されます。

 

現在では、各社様々なメンブレンを開発し、防水性や透湿性、そして耐久性などの機能に差異があります。

例えば、メンブレンの素材を変えてみたり、製造方法を変えてみたり、また3層構造から2層構造にして防水性を少し落としつつも透湿性をより高めてみたり、などとそれぞれのアウトドアスポーツに適したウェアが作られています。

 

メリット

この構造のメリットとしては以下のようなものがあります。

・防水性が高い
・メンブレンが壊れない限り防水性が続く
・頑丈
・メンブレンの作り方や生地の層の構造によって様々な特性のウェアがある

 

まず、最大のメリットはその防水性の高さです。メンブレンは水の分子を通さない構造になっているので強い雨でも水が浸入するということはありません。さらに、各社生地だけではなく、ウェアの構造にも気を遣い、水が入ってこないようなウェアを作っているので街中での雨は完全にシャットアウト、山でも安心して使えるような防水性を備えています。

二つの目のメリットとしてはメンブレンが壊れない限り防水性が続くということです。撥水加工と呼ばれるものは、後で解説しますが、いわゆる防水スプレーを生地に吹きかけたり染み込ませたりしているものなので、そのコーティングは時間とともに剥がれたり、時には加水分解でべたべたになってしまうものもあります。

しかし、メンブレンは生地そのものの構造によって防水性を持たせているので、そのような劣化の可能性がありません。したがって、破れたりしない限りは防水性が続きます。

三つ目のメリットとして、ゴアテックスなどの多くのメーカーは耐久性テストを実施し、100回の洗濯にも耐えられるような耐久性があります。また、メンブレンは洗濯洗剤などの薬剤の影響をほとんど受けないため、ガシガシ洗濯しても大丈夫です。
しかし、表生地などの撥水加工は影響を受けるため、漂白剤や柔軟剤などは使用しないほうがいいです。

四つ目のメリットとしては、現在様々なメーカーがたくさんの種類の生地を開発し、工夫を加えてそれぞれの用途に合ったようなウェアを開発している点です。登山の時はより防水性が高いもの、トレイルランニングで使うときはより透湿性が高いもの、といったように使い分けができ快適に着れるのも魅力の一つです。

 

デメリット

デメリットとしては以下のようなものがあります。

・値段が高い
・透湿性が他と比べると低い
・ウェアが固いものが多い

 

まず、一つ目のデメリットとしてはその値段が挙げられます。メンブレンを開発、製造するコスト、生地を貼り合わせる工程、使われている生地が撥水加工の生地に対して2枚ほど多いことなどによって値段は高くなってしまいます。

また、透湿性が他のものと比べると低くなってしまうというデメリットもあります
体から発せられた蒸気はまず裏生地を抜けて、メンブレンの小さい穴を抜けて、表生地の縫い目を抜けなければいけないので、相応の時間がかかってしまいます。また、そうしているうちにウェアの中に水滴が形成されてしまうと、水分子となってメンブレンをすり抜けることが難しくなってしまうので、透湿性は劣ってしまいます。
しかし、現在では防水性を落として代わりに透湿性をぐっと上げたウェアなどもあるので、このデメリットは解消されつつあるのも事実です

最後のデメリットとして、その耐久性がゆえにウェアが固いものが多いということです
メンブレンは伸縮性のある素材ですが、伸び縮みを繰り返しているうちに摩耗してしまいます。そのため、ウェア自体に伸縮性をあまり持たせないことで耐久性を上げているウェアが多いです。したがって、伸縮性があまりなく、動きにくいと感じてしまう場合もあります。
これも現在では改善され、伸縮性のあるウェアも多く出ていますが、伸縮性があるということは耐久性が少し落ちているということも理解しておかなければなりません

 

撥水加工系


(画像出典:Patagoniaホームページ「メンズ・R2テックフェイス・ジャケット | パタゴニア | 公式オンラインショップ | M's R2® TechFace Jacket」より)

次に紹介するのが撥水加工系です。

 

そもそも撥水加工とはなにか

撥水加工系は、ポリエステル製の生地にフッ素樹脂などの撥水コーティングをして防水性を持たせているものです

撥水と防水の違いは、その文字からも見分けることができます。撥水は水を撥ねる(はねる)、つまり水を弾くということです。一方で防水は水を防ぐ、つまり水の侵入を防ぐものです。したがって水が玉になって落ちていく防水性、というのは実は撥水加工によるもので、メンブレンはあまり関係ありません。

例えば防水スプレーなども、撥水加工の一つです。防水スプレーはフッ素樹脂などを吹きかけることによって、ポリエステル、布、革などの素材の表面にコーティングを施し、水を弾きます。

 

メリット

撥水加工系のメリットは以下のようなものがあります。

・比較的安価に、十分な防水性が得られる
・透湿性が優れていて快適
・防水スプレーなどで撥水性を復活させられる

 

一番のメリットとしてはその価格です。メンブレン系のウェアと比べると半額程度かさらに安い値段で購入することができます。
また、撥水加工といっても街中で着たり、トレッキングに行くくらいの防水性は確保されています。もしも、街着にしたりたまにアウトドアアクティビティに赴く位ならば必要十分な防水性があるので、コストパフォーマンスは高いといえるでしょう。

次に、メンブレン系のウェアに比べて透湿性が高いのも一つのメリットです。さらに、柔軟性が高いウェアが多いので比較的快適に着れるウェアが多いのも魅力の一つです。

また、撥水加工は使っているうちにコーティングが劣化したり剥がれたりすることによって防水性が失われていきますが、自分で防水スプレーなどを使ってこまめに手入れすることによって防水性を復活させることができるのも、一つの魅力です。

 

デメリット

デメリットとしては以下のようなことがあります。

・防水性がメンブレン系に対して劣る
・寿命が短いものが多い
・ものによっては加水分解して寿命を迎える
・撥水スプレーでは完全に撥水性が回復するわけではない

 

デメリットの一つ目としては、防水性能がメンブレン系に対して劣ることにあります。撥水加工といってもどうしても耐水圧がメンブレン系と比べて低いため、雪の上に座るウィンタースポーツや、濡れた状態での肘の内側や膝の裏側等の、動きによって圧力がかかる部分はやはり水が染み込みやすくなってしまいます。

また、二つ目のデメリットとして寿命があります。柔軟性が高いことやコーティングの方法によって快適ですが、その分やはり生地が薄かったりし、寿命が短い製品が多いです。

さらに、コーティング剤によっては加水分解を引き起こしてしまうようなものもあります。もしも数年して加水分解してしまったら、べたべたになってしまいます。加水分解したコーティング剤を落として、新たに撥水加工を施すこともできますが、新品のような防水性や綺麗さを取り戻すのは大変困難で手間がかかってしまいます。

 

ワックスドコットン(キャンバス)


(画像出典:Fjallraven公式ホームページ「Fjällräven - Montt 3 in 1 Hydratic Jacket M」より)

次にワックスドコットンです。
英語だと、ワックスドコットンとオイルジャケットなどの生地が同じに扱われている場合が多いのでややこしいですが、ここではパラフィンと蜜蝋でコーティングされた生地を解説していきます

 

そもそもワックスドコットンとはなにか

ワックスドコットンは、パラフィンと蜜蝋を混ぜたワックスを生地に塗ることによって撥水性を持たせたものです。化学繊維や撥水コーティングが登場するずっとまえから船乗りの間で使われていた生地で、昔ながらの機能性の生地です。その見た目や質感から、おしゃれなデザインのジャケットや鞄に使われることが多いです。

 

メリット

メリットとしては以下のような点が挙げられます。

・とにかく自然な質感がいい
・火の粉で穴が開かない
・街着や軽いトレッキングになら十分な撥水性
・何度でも撥水性を復活させられる

 

まず、とにかく自然な質感がいいという点です。近年の高機能アウトドアジャケットは質感がテカテカで落ち着いた普段着には合いません。しかし、ワックスドコットンを使ったジャケットならばレトロな質感でキャンプなどの落ち着いた雰囲気にもピッタリ合います。

次に、火の粉で穴が開かないということです
化学繊維を使ったジャケットは、難燃性の素材であるケブラーが混紡されているもの以外は火の粉や弾けた炭の破片などで穴が開く可能性もあります。しかし、ワックスドコットンはコットンなので火の粉で穴が開くことがありません。つまり、キャンプには最適ということです

また、撥水性は高いとは言えませんが、街着やキャンプ、軽いトレッキングには十分な撥水性を備えています。さらに、撥水性は使用とともに落ちていきますが、市販のジャケット用ワックスを塗り重ねることによって撥水性を復活させることができます。また、塗り量によって撥水性や通気性を調整することができるので、自分好みのジャケットを作ることができます。

 

デメリット

デメリットとしては以下のようなものが挙げられます。

・防水性能が低い
・防風性能が低い
・少し高い

 

まず、最大のデメリットは防水・防風性能が低いです。筆者もFjallravenのG1000というワックスドコットンを使ったコットンとポリエステルの混紡素材を使っているジャケットを着ていますが、大雨を楽々耐えられるような防水性能はありません。

また、機能の割には値段が高い製品が多く、機能を第一に考えている人には合いません。もしも登山などの本格的なスポーツを予定しているならば、同じ予算でメンブレン系のジャケットを買ったほうが賢明です。

 

オイルドコットン

(画像出典:Barbour公式ホームページより)

最後がオイルドコットンです

 

そもそもオイルドコットンとはなにか

オイルドコットンは、コットン生地にオイルを染み込ませて撥水加工をしたものです。この生地は、数百年前から船乗りの間で使われていた、最も古い撥水生地の一つです。現在ではあまり使われていませんが、依然としてBarbourなどの歴史あるメーカーが採用しています。筆者もBarbourを愛用しています。

 

メリット

メリットとしては、基本的にはワックスドコットンとほとんど同じです。

・防水性がワックスドコットンよりも少し高く、日常生活では十分な防水性能
・火の粉で穴が開かない
・自分でオイルを塗って防水性能を上げることができる
・頑丈

 

まず、肝心の防水性能ですがパラフィンと蜜蝋でコーティングされたワックスドコットンよりは多少水をしっかりと防いでくれる印象があります。

そして、ワックスドコットンと同様、火の粉で穴が開きません。しかし、火のそばで使うと一つのマイナス点があるので後で説明します。

加えて、バブアー等のオイルドコットンを使ったジャケットを販売しているところは専用のオイルを同時に販売しています。基本的には一年に一度、暑くて着れない夏の時期に「リプルーフ」というオイルを塗りなおす作業をすることによって、撥水性が保たれます

また、生地自体が頑丈なので長く着ることができるのも魅力です。筆者が住んでいるヨーロッパではオイルドコットンの10-20年前のモデルが古着屋でたくさん売っていますが、どれもまだまだ着ることのできる状態です。これが、その頑丈さを物語っていると過言ではありません。

こうしたいつまでも着ることのできる頑丈さとメンテナンスの可能性が最大の魅力といえます

 

デメリット

しかし、オイルドコットンにはたくさんのデメリットがあります。

・防水性能はやはり劣る
・オイルが他の服やものについてしまう
・リプルーフ作業は大変
・気軽に洗濯ができない
・匂いが付きやすい
・重たい

 

まず、今回のテーマである防水性能です。防水性能はワックスドコットンと同じようにそれほど高くはありません。あくまでも、日常生活や軽いトレッキングで急に降ってきた雨などをしのぐくらいです。

次に、メンテナンスです。オイルドコットンは取り扱いが面倒という点がデメリットとしてあります。まず、特に新品やリプルーフしたての状態は、オイルが多くべたついたり、他の服や机などに付いたりします。そのため、他人と触れることの多い電車などでは着ることがためらわれるときもあります。

また、ワックスドコットンはワックスがけが比較的簡単なのに対して、オイルドコットンのリプルーフ作業はかなり大変なのも一つのデメリットとして挙げられます。加えて、オイルのせいで気軽に洗濯をすることが不可能なのも大変な点の一つです。

さらに、メリットのところで火の粉で穴が開かないと述べましたが、その代わりにオイルが煙を吸ってしまうことによって匂いが付きやすいというデメリットがあります。個人的には、その煙の臭いがついた泥臭さも魅力だと思いますが、人によっては嫌いなにおいになってしまいます。

最後のデメリットとしては、生地自体の重みがかなりある点です。特に長時間歩いたりしているとその重さが少しずつ負担になってきます。

このように、多くのデメリットがある生地ですので、よっぽどそのスタイルに惚れた、多少面倒でもいいから着たい、という人以外にはお勧めしにくい生地です。しかし、質感やスタイルは非常にかっこいいので一度見てみてください。

 

まとめ

現在は、様々なメーカーが様々な名前で独自の生地を開発していますが、大別すると大体この4つになると思います。特にアウトドアスポーツ用ウェアを探している場合は、メンブレン系か撥水加工系のふたつなので、両者のメリットデメリットを見比べて、自身の用途に合わせて選んでみてください

もしも、スポーツではなくキャンプなどに使う場合は、火の粉で穴が開かないコットン系の生地もお勧めなので、チェックしてみてください

 

また別の記事で、レインウェア選びのポイントについて詳しくまとめました。よろしければこちらもご覧ください。

レインウェアの魅力と基本的な選び方
https://outdoor-hacker.com/fashion/rain-wear-select-point/

 

これらの知識を基に、ご自身の用途と照らし合わせて、いいウェアと出会ってください。

(アイキャッチ画像出典:Patagoniaホームページ「メンズ・R2テックフェイス・ジャケット | パタゴニア | 公式オンラインショップ | M's R2® TechFace Jacket」より)

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