トレイルランは、厳しい傾斜などバーティカルな要素が多いので、それに特化したトレーニングが必要です。
でも、住む場所の近くにちょうどいい坂や縦走路があるとは限りませんし、山に入ってもトレイルランの走力向上には必ずしもつながりません。
そこで本記事では、近くに山がない人向けに、トレイルランの競技力向上において重要な要素を解説します。
ロードでの練習とトレイルでの練習は別
まず大事なのが、ロードでの練習とトレイルでの練習の目的は違うという点です。
私も初心者の頃、山に入って多く距離を稼ぐ練習が正しいと思っていましたが、それは遠回りでした。それも重要なのですが、競技力向上をめざすなら、ロードでの練習がベースとなります。
ロードでフルマラソンに必要な能力を鍛える
ロードで行う練習は「フルマラソンで必要な能力を磨く練習」と同じです。具体的には、以下を鍛えます。
・LT値
・最大酸素摂取量(VO2MAX)
・脂質を優先的に使える代謝経路
LT値
フルマラソンでもトレイルランでも、低い心拍のまま早いペースで走るに越したことはありません。そして、速いペースでも心拍を低く保つには、LT値の向上が必要になります。
LT値は、乳酸性作業閾値とも呼ばれ、これを境に心拍は急激に上がります。
人は有酸素運動中、乳酸をエネルギーとして利用しますが、運動負荷が一定ラインを超えるとそれができなくなります。言い換えれば、マラソン選手は速いペースでも乳酸をエネルギーとして利用できる体なのです。
最大酸素摂取量(VO2MAX)
これは1回の呼吸で酸素をどれだけ取り込めるかを表します。長距離ランナーなら、一度にできるだけ多くの酸素を取り込めると有利です。
この数値を向上させるには、ミール・ザトピックが考案したインターバルトレーニングが有効です。400メートル〜1キロメートル以上のコースを早いペースで走り、ゴールしたら回復し切らない程度のゆっくりしたジョギングを入れ、またコースに移るという練習です。
トレイルランの最中に自動心拍が上がると苦しくなりますが、インターバルトレーニングを多く入れると、心拍をレース中に安定させられます。
脂質を優先的に使える代謝経路
これを鍛えるトレーニングとしては、30キロメートルくらいを一定ペースで走る長距離走や、ビルドアップ走です。特にビルドアップ走は、さまざまな心拍ゾーンや筋力を動員するので、糖質と脂質の両方をエネルギーとして使う体に作り変えられます。
登りに特化した走力を鍛える
ロードを使ったトレーニングが定着してきた後に取り入れたいのが、上りに特化した走力を鍛えるトレーニングです。これは以下の目的で行います。
・筋力をつけて、上りを押していける体を作る
・上りで必要な骨格筋に向かう毛細血管や循環器系を発達させ、骨格筋に多くの血液が送られる状況を作り出す
・骨格筋そのものを発達させる
これらを強化すると、より少ない労力できつい傾斜を走れます。
ただ、自宅の近くに坂道やトレイルがない方も多いと思います。私も、住んでいる街には山もなければちょっとした坂すらありません。
そこで、坂道がある場合とない場合で、具体的なトレーニングを紹介します。
坂道があれば、峠走が有効
近所に5キロメートルくらいの坂道(峠)がある場合、峠走でトレーニングしましょう。
峠走では、以下の能力を鍛えられます。
・早いペースで走るための骨格筋
・高い心拍を維持するための循環器系
・下り坂での足の早い回転で要求される神経系
箱根駅伝の山登り区間(5区)で優秀な成績を収めた選手が、マラソンでも活躍できるのは、上の能力が高いためです。登りを走り続けることは、それだけ根本的な走力向上につながるのです。
坂道がなければ、トレッドミルを活用
坂道がない場合は、ジムのトレッドミルを積極的に活用しましょう。
傾斜は9〜15%がおすすめです。バラエティに富んだ傾斜を身体に経験させて、さまざまな骨格筋に刺激を与えられますし、15%ならパワーウォークのトレーニングも可能です。
慣れてきたら、心拍データを取りながら、傾斜をつけた状態でペース走やインターバルトレーニングを行いましょう。インターバルトレーニングは、トレッドミルの速さを調節したり、ペースはそのままで傾斜を調節したりして、負荷をかけるのも効果的です。
傾斜を自分で調節できたる、本当の坂道よりは安全、上りを走る動きでのLT値向上や最大酸素摂取量の向上が望めるなど、トレッドミルはメリットが多いトレーニングです。ただ、下り坂がないため、神経系を養う練習はできないので注意しましょう。
トレイルランで必須の神経系を鍛える
躓いたときにもう片方の足が出なくて転倒を防げなかったという経験、年を取ると増えてくると思います。これは脳の信号に筋肉が追いついていない状態です。
トレイルランは木の根や不安定な岩がある不整地を、ある程度のペースで走ります。当然、躓く恐れがあります。そのため、しっかり受け身を取ったり、もう一方の足を前に出して転倒を防いだりする能力が大事です。
そのために必要なのが、神経系のトレーニングです。
たとえば、陸上の短距離選手が行うラダートレーニングは、脳からの信号を筋肉に素早く伝えるための練習です。あれができるから、短距離の選手はあれだけ早い足さばきで走れるのです。
神経系の強化には不整地でのランニングがオススメ
神経系のトレーニングは山で行うのが良いですが、山がない方は不整地を使ったランニングがおすすめです。たとえば、緑地公園の草の上や、木の根の多い林道などを走ってみましょう。河川敷の草の上でも充分です。
こういった場所には、ちょっとした凹凸や草に隠れた石などがあります。こういった路面で少し早めのペースで走ると、バランス感覚や神経系を鍛えられます。
これらの練習は実戦に活かせるのか?
2019年、私は家の周囲に山がないため、練習内容を切り替えざるを得なくなりましたが、最初は山に入らないトレーニングに疑問を抱いていました。
その頃の練習は主に以下の内容でした。
・ペース走(3分40秒~3分30秒で12キロメートル)
・傾斜走(9~15%の傾斜で10キロメートル)
・インターバルトレーニング(70秒間ダッシュ×10本でリカバリー200m、もしくは1,500mを3本)
・クロスカントリートレーニング(不整地を120分ジョギング)
しかし、この練習のみでスパトレイルに出場しましたが、結果は3位入賞。頻繁にトレイルを走っていた時期と同じか、それ以上の走りができました。
トラックでの練習とトレッドミルに傾斜をつけて走る練習が功を奏したようで、結果的に山に入らずとも良い成績を収められたのは収穫でした。
というわけで、皆さんも日頃の練習内容に、以上の内容を組み込んでみてはいかがでしょうか? 自分に合った内容に変えて、無理なく行うのがポイントです。
自身の経験を元に、トレイルランニングの競技力向上に関連した情報などを発信しています。
トレイルランだけでなくファストパッキングも好きなので、自身の経験を元にオススメギアの紹介も発信していきたいと思います。
【2019戦績】
・熊野古道マウンテンランレース 準優勝
・スパトレイル3位
個人ブログ
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