多くの方は、クライミングに初めて挑戦するときは、シューズをレンタルすると思います。ですが、その魅力に取りつかれると、自分用のクライミングシューズが欲しくなるでしょう。
そこで今回は、初めてクライミングシューズを選ぶ際に気を付けたほうがいい点と、お店で実際に選ぶときに注目したほうがいい点を、元クライミング用品店店員の筆者がお伝えしたいと思います。
自分用のクライミングシューズは必要なの?
多くの初心者の方から「レンタルできるんだから、自分用のシューズっているの?」と聞かれます。
答えは「クライミングを続けていくつもりなら、絶対に用意したほうがいい」です。以下で理由を説明します。
1. クライミングシューズの性能が段違い
クライミングシューズは、ソールの厚さや使われているラバー、ミッドソールの材質やシャンク、シューズの形などによって性能が全然違います。
レンタル用のシューズは基本的に一番下のクラスで、フィット感が良くない上にラバーが滑りやすいです。
いわゆる初心者用のシューズでも、レンタル用のシューズよりは一段階上のラバーが使われていたり、靴の素材に革が使われていたりと、確かな違いがあります。
こういったシューズの性能の違いは、実力の成長の一助になります。
2. 靴が自分の足に馴染んでくる
クライミングシューズの多くは、普通の靴と違って、きつめに履きます。そのため(材質にもよりますが)、履いているうちに革が自分の足の形に広がります。現在、多くの初心者用シューズに使われているシンセティックレザー(人工皮革)も、多少伸びます。
したがって、自分用のシューズは、履けば履くほど自分の足に合った形に変化していき、だんだん心地よいフィット感が生まれます。自分のクライミングの成長と共にシューズも成長していくので、楽しみが増えます。
3. 外岩やレンタルシューズが無いところにも行ける
最近は多くのジムで、シューズのレンタルが当たり前にありますが、市民運動センターなどに併設されているクライミングウォールなどでは無いことも。そういった場所では、自分用のシューズがないと登れません。
また、クライミングを初めてしばらくすると、自然の中で登る外岩クライミングにも挑戦してみたくなるかもしれません。その時は当然、自分でシューズを用意していく必要があります。のちのち外岩に挑戦してみたいと思っている方は、早めにマイシューズを手に入れておくと吉です。
4. 毎回靴下を用意しなくてもいい
レンタルシューズの場合、衛生上靴下を履かなければいけません。
しかし多くのクライマーは、シューズを素足で履きます。その方がより高いフィット感と、ホールドをしっかり掴んでいる感覚が得られ、足に力を伝えやすいからです。
最近は薄い靴下を履く人も増えていますが、筆者は素足で履く方が、やっぱりフィット感がいいと思います。何より少しばかり開放感があって涼しいのが良いですね。
5. 金銭的には少し高いが、
多くのジムでは、レンタルに300円くらいかかると思います。一方、初心者用のクライミングシューズはだいたい12000円。単純計算で、40回くらい使えば元が取れます。週に1回クライミングに行くと、約10ヵ月後です。
そう考えると結構長いため、レンタルでもいいと思われるかもしれません。ですが、20回目くらいにはかなり実力がついており、より高難易度の課題も登れるようになっています。
その時にレンタルシューズだと、シューズ性能の低さが足かせになって、思うように登れなくなります。
また、シューズ自体の耐久性を考えると、そこまで高い買い物でもありません。たとえば、筆者が使っているジム用のシューズは2年前に購入し、週2回は使っていますが、未だに問題なく使えています。
特にジムのみで使う場合、ソールの減りやアッパーの摩耗などが少ないため、より長持ちします。1回の使用に換算すると120円程度。十分に元を取った上、快適に登ることができます。
クライミングを続けていくつもりなら、すぐにマイシューズを手に入れることをお勧めします。その方が結果的に経費が浮きます。
クライミングシューズの種類
次に、クライミングシューズの種類を紹介していきます。
ここでは大まかに、形と性能の点から説明していきます。まず、形は大きく、ベルクロタイプ、スリッパタイプ、レースタイプの3つがあります。
ベルクロタイプ
最も一般的なオールラウンドタイプのシューズです。脱ぎ履きがしやすく、ベルクロでフィット感も調節できます。
特に脱ぎ履きしやすいのが大きなメリットです。クライミングでは、登るとき以外はシューズを脱いだり緩めたりしていることが多いので、登った後にすぐ脱げる、登る前にすぐ履けるベルクロタイプは、最も快適なシューズといえます。初心者の方は、初めにこのタイプを選んでおけば間違いないと思います。
デメリットは、ベルクロの紐が使っているうちに千切れる点です。ベルクロにはどうしても力がかかるため、取れやすくなります(紐のようなタイプも同様です)。ただ、2年くらい使える耐久性はあるので、あまり気にしないで大丈夫です。
スリッパタイプ
こちらも多くのモデルに見られるタイプで、着脱しやすいのが特徴です。サイズが合えばとても快適に、ベルクロタイプより素早く履けます。
一方、ベルクロタイプやレースタイプのようにはフィット感を調節できないので、サイズ選びを間違えたり、シューズに使われている革が伸びてしまったら、フィット感が失われる恐れも。サイズ選びとシューズの材質をよく知っていなければならないので、最初はシューズ選びが難しいかもしれません。
レースタイプ
スニーカーのように紐で履くタイプで、ほかより高いフィット感が特徴です。長時間履いても苦にならないので、マルチピッチクライミングなどに多く用いられています。見た目もクラシックで、かっこいいです。
しかし、紐をいちいち解いたり結んだりしなければいけないので、着脱に時間がかかります。写真のミウラーは、紐を引っ張るだけで全体が締まるスピードレースシステムを採用していますが、それでもベルクロタイプやスリッパタイプに比べれば、時間がかかります。
また現代のボルダリング、特に室内では、トゥーフックを多用することがあります。この場合、ベルクロタイプはつま先あたりに余裕があり、多くのラバーを張れますが、レースタイプは紐があるので張れず、フリクションが得られない恐れがあります。
快適性重視のクライミングシューズ(初心者用シューズ)
次に性能面から見ていきましょう。
性能面では、快適性重視と性能重視の2つに分けられ、その中でもソールの硬さによってジム用、外用と分けられます。ただし、このジム用・外用は、あくまで「向いている」程度の話で、それ専用のシューズというわけではありません。
まず、快適性重視のシューズを見ていきます。
このタイプのシューズは、普通のスニーカーのようにソールが一枚で繋がっており、平坦になっています。上から見たときに靴がまっすぐになっており、履きやすいです。また価格も、性能重視のシューズの半額程度です。
初心者用シューズと呼ばれることもありますが、中級者以降になっても、練習用シューズやバックアップ用シューズとして十分に使用できます。筆者や周りのクライマーも、ジムはトレーニング用のシューズ、本番は外岩用という意識があるので、ジムでは快適性重視のシューズを履いています。
性能重視のシューズ
性能重視のシューズは、ソールが一枚で繋がっているものもありますが、多くの場合は分離されています。その関係で「ダウントゥ」と呼ばれる珍しい形になっています。具体的に、シューズが山なりになっており、より効率的に足先に力を伝えられたり、傾斜が強い壁でしっかりと足をひっかけたりできます。
またシューズによっては「ターンイン」という形状になっているものもあります(上図)。右の靴は、踵からつま先までほぼ真っ直ぐなのに対し、左の靴はつま先の部分が左に曲がっています。これは、一番力がかけやすい足先、特に親指と人差し指あたりに、より力を集中させるためです。
さらに、ソールやミッドソールのグレードが快適性重視のシューズより高く、より滑りにくくなっています。そのため値段も高いです。
しかし、こうした形状はクライミングシューズに慣れていないと非常に苦痛です。また、一足目に性能重視のシューズを選んでコストを抑えようとすると、必然的に苦痛を感じない大き過ぎるサイズを選ぶことになってしまいます。
結果、シューズ本来の性能を生かせなくなり、中級者になる頃に買い替える羽目になります。性能重視のシューズのほうが快適性重視のシューズより1.5〜2倍くらい高いので、余分な出費となる可能性が高いです。
インドア向けとアウトドア向けの違いについて
次に、インドア向けとアウトドア向けの違いです。初めてシューズを選ぶ際には必要ないかもしれませんが、頭の片隅に置いておくとシューズ選びが楽しくなります。
端的にいえば、インドア向けは柔らかく、アウトドア向けは硬いです。
インドア向けは、フットホールドのサイズが大きいです。より大きい面積でしっかりグリップを効かせた方が、効率的に登れるからです。
一方、アウトドアではそのような場面はあまりなく、極小のホールドに足をかけることのほうが多いです。また岩は硬いので、シューズが柔らかいと足に痛みを感じます(硬いシューズだと感じません)
快適性重視の初心者向けシューズでも、多少の硬さの違いがあります。実際に店舗で靴を触ったり、曲げたりしてみると、その感覚がわかると思います。硬い靴は全然曲がらず、柔らかい靴は簡単に折りたためます。いつかアウトドアで登りたい人は、少し硬めのシューズを選んでおくと、2足目を買ったときにも簡単な課題用シューズとして使うことができます。
どこで購入するのがいいのか
ここまで読んでいただいて、実際に購入を検討している方に向けて、どこで購入するのが良いのかお伝えします。
ネットではダメなのか?
昨今インターネットショッピングのほうが種類が多く、買いやすく、割引されていることもあります。しかし、特に初めてのシューズは、ネットでの購入はお勧めしません。
なぜなら、クライミングシューズはサイズ選びがとてもシビアで、半サイズずれるだけでも足の痛みを引き起こしたり、フィット感が甘かったりするからです。また、それぞれの足の形によっても、合う靴・合わない靴があるので、実際に店舗で履いてみてから購入しましょう。
筆者もすでに20足近く購入していますが、初心者の頃にネットで購入して痛い目を見ているので、今では同じモデルしか購入しないことにしています。普通の靴を買うのとは少し事情が違うということは、頭の片隅に入れておいてください。
どこで買うか?
クライミングシューズは、登山用品店や大きなクライミングジムなどで取り扱っています。
登山用品店のほうがアクセスはしやすいですが、スタッフがクライマーではなく、クライミングシューズに関する知識が少ない場合もあります。
一方、クライミングジムは、クライミングの専門知識があるスタッフが大半なので、しっかりしたアドバイスを受けられます。登山用品店に比べると少し高い場合もありますが、いつも通っているジムがシューズを販売していれば、そこで買うことをお勧めします。
ジムによっては会員になっていれば割引を受けられることもあります。事前に確認してみましょう。
店舗では遠慮しないように
次に、実際に店舗に行った際の注意点です。これは「店舗では遠慮しないように」という心構えに尽きます。
クライミングシューズは様々なモデルがあり、各々の足型によって合う合わないがあります。また前述のように、サイズもかなりシビアで、半サイズ違うだけでもフィット感が違います。
たとえば、上の写真は表記上では同じサイズですが、左の靴のほうが大きいように見えます。しかし、実際に履いてみると、感覚的には右の靴のほうがゆったりしていて、長時間履いても苦になりません。
このように、クライミングシューズは個人の足の形と靴がしっかり合わなければいけません。
そのため、初めてのシューズ選びの際は、できるだけ多くのシューズを試着してください。店員さんも忙しいのに悪いなという気持ちになるかもしれませんが、それで適当に選んでしまうと、後で後悔してしまう可能性が高いです。特に足型とシューズの形があっていないと、ずっと痛みを感じて苦しい思いをします。
クライミング用品店で働いていた筆者からすると、いくら試着してもらっても構いません。ほかの店員さんもそうだと思います。納得できるまでしっかり試し履きをしてください。
しっかりと試着をして快適なクライミング生活を
クライミングの快適さや上達の速度は、シューズが大きな要因でもあります。しっかり試着して、自分がいいと思ったシューズを購入できれば上達も速くなります。この記事が初めてのシューズ選びの参考になれば幸いです。
岩と自転車をこよなく愛するが、普段は用事がないと家から出ないインドア派。何事も形から入るタイプで、ギアの知識だけは人一倍。ギア好きをこじらせてアウトドア用品店でバイトをしていました。人生の3分の1を海外で生活し、現在もヨーロッパにて勉強中。海外のアウトドア文化も発信していければと思っています。
関連する記事
-
これでルーフの達人に。自宅で強くなれるクライミングトレーニング ―腹筋・体幹編―
(評価数:0件) -
外岩ボルダリングにとって重要な「ボルダリングマット(クラッシュパッド)」の選び方
(評価数:0件) -
自宅でできるクライミングトレーニング ―保持力編―
(評価数:0件)